ミューオンは、蓄積磁石内の一様な磁場(3T)によって、シリコンストリップ検出器の周りを周回しています。ミューオンが崩壊すると、陽電子が生成されます。シリコンストリップ検出器は、陽電子の飛跡を再構成し、ミューオンの崩壊点および崩壊時刻を求めることで、ミューオンの$g-2$ とEDMを測定します。5ナノ秒あたりに最大30個のミューオンが崩壊するため、多数の陽電子が検出器に飛び込んできます。そのため、検出器では、1つ1つの陽電子の飛跡を区別して再構成する必要があります。これには、高精細(190μm間隔)なシリコンストリップセンサーおよび高速応答な読み出しASICが使用されます。
新潟大学では、ミューオン崩壊によって生じる陽電子を捉えるためのシリコンストリップ検出器の研究開発を行っています。特に、シリコンストリップ検出器向けのエレクトロニクスやデータ収集システムの開発に取り組んでいます。
シリコンストリップ検出器の周りを周回するミューオン軌道および、ミューオン崩壊で生じた陽電子の飛跡。
検出器で再構成した陽電子の飛跡。図中では25 個のミューオン崩壊をシミュレーションした。
J-PARC muon g-2/EDM 実験はコラボレータ(共同実験者) が約140名いる国際共同実験です。そのため、大学の研究室内だけでなく、他大学の研究者・学生と協力して、研究を進めています。シリコンストリップ検出器を開発するサブグループは新潟大学以外に東京大学、高エネルギー加速器研究機構(KEK)、総研大、九州大学、富山高専等が参加しており、毎週、リモートでミーティングをしています。年に1~2 回は、合宿と称して対面で集まり、シリコンストリップ検出器の開発状況・開発方針を議論するためのミーティングをしています。また、コラボレーション全体のミーティングが半年に1 回あります。
大学院生になると、実験や打ち合わせのためにKEK やJ-PARC に出張します。学部の時は基本的に新潟大学の実験室で研究しますが、KEK が実施している加速器科学インターンシップを利用して、J-PARC で実習(実験) することもあります。